渦の道
「大鳴門橋」は、いわゆる「本四架橋」3ルート(明石鳴門/児島坂出/尾道今治)のうち、明石鳴門ルートを構成する橋のうちの一つです。
計画当初から、新幹線が桁の中を走行できるように設計されていますが、鉄道用設備は完成以来活用されていませんでした。
本州側の明石海峡大橋の建設に際して、鉄道道路併用橋とはせず道路単独橋として整備されたため、まず淡路島に新幹線が渡る見通しが立たなくなってしまいました。追々、大鳴門橋の鉄道用設備が、正に渦潮の上で゙宙に浮ぐことになったのです。
明石海峡に鉄道トンネルを掘るか、紀淡海峡にトンネルまたは併用橋を建設すれば、大鳴門橋の鉄道用設備が活きる可能性がありますが、そんなことは夢また夢の絵空事。当面は列車が来る当てのない無駄な空間のままです。
そこに徳島県が目をつけました。
本四連絡橋をどれかでも渡られた方はお分かりでしょうし、関東ならレインボーブリッジや横浜ベイブリッジでも同様ですが、海上の吊橋(または斜張橋)といっても、クルマからは思いのほか海が望めません。
路肩に停車して眺望を堪能したいところですが、緊急時以外の駐停車は禁止されており、鳴門の渦潮はじめ瀬戸内海の美しい景色は、沿道のSA・PAにクルマを入れてからでないと楽しめません。
自転車や歩行者も渡れる尾道今治ルート「しまなみ海道」や、新幹線こそ実現していないものの全区間に在来線が併設されている児島坂出ルート「瀬戸大橋」では、歩行者・自転車は自由に立ち止まって海を眺められますし、瀬戸大橋を渡る列車の線路は道路面の下、鉄骨で箱型に組まれた桁の中ですから、車窓を通り過ぎる鉄骨がやや目障りなもののクルマより遥かによく島影や橋を潜る大型船を見ることができます。
大鳴門橋は雄大な渦潮の真上を一跨ぎしながら、橋からは眺めること適わず、交通路としては格段に便利になりましたが、橋そのものの観光面での貢献は他のルートに比べると今一つです。
そこでデッドスペースとなっている鉄道空間を転用し、渦潮を眼下に眺められる県営の施設「渦の道」が整備されました。
桁といっても、風が通り抜けやすいように(強風で橋全体が振動し崩落するのを防ぐ)骨組みだけの構造ですから、新たに通路や床版を設置しなければなりません。
列車の重量に耐える設計ですが、常時載ったままという前提ではありませんし、新たな構造物が及ぼす風への影響も無視できません。
デッドスペースの有効活用といっても簡単なものではなく、施設の外壁を密閉された壁ではなく金網構造にして風の流れを妨げないようにするなど工夫が施されています。
施設のハイライトは、最も径間中央寄りに設置された展望台。鉄骨だけで組まれ既設の床版がない桁の構造を逆手に取り、新設された展望台床面にはところどころ強化ガラス張りの透明な部分が設けてあります。
丁度渦潮が発生するポイントの真上に位置するため、陸上や船上からの眺めとは違う迫力満点の眺望を楽しめます。
大丈夫だと分かっていても、少々恐々とガラスの上に立てば、不思議な浮遊感。高所恐怖症の方には耐え難い感覚でしょう。
運が良ければ、渦潮を囲むように周遊する観光船や、潮に抗って全力航行する貨物船や漁船を見ることもできます。
ただし、訪問する時間には十分注意しましょう。
潮の干満が太平洋(紀伊水道)と瀬戸内海(播磨灘)とで時間差があるために発生する渦潮は、鳴門海峡の両側で潮位の差が最大のときに最も激しくなります。
逆に潮位差がないときは、潮が止まり海が静かになってしまいます。
「渦の道」HPには潮見表が掲載されており、干潮ないし満潮の前後1~2時間を外すと静かな鳴門海峡を眺めることになりますのでお気をつけ下さい。
満月・新月の大潮の時期、また更にお彼岸が重なると潮位差が大きくなり渦もまた極大化します。この時期を狙っていくのがお奨めです。
大鳴門橋には新幹線を複線で引けるスペースがあるとはいえ、強度上は16両編成1本分の重量にしか耐えられず、橋上でのすれ違いをしようものなら落橋の危険も。満願適って新幹線が通ったとしても、実質的に単線運用を強いられるボトルネックを抱えた、極めて中途半端な構造の橋になってしまっています。
オイルショックや景気悪化など着工後の環境変化があったとはいえ、当時の国鉄が莫大な負担金を費やしてまで、中途半端な鉄道道路併用橋として建設する必要があったのか。展望台の突端から淡路島方向につながる鉄道空間を眺めるにつけ当時の政治家・事業関係者に疑問を呈さずにはいられません。
「渦の道」が収まる空間は、もはや潰えかけている四国新幹線計画の「夢の欠片」なのです。
住所: 徳島県鳴門市鳴門町 鳴門公園内
電話 : 088-633-6262
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