Vｰairエフエム山陰

　鳥取・島根両県を放送エリアとするFMラジオ放送局。
　基本的に都道府県単位で開設される県域放送のFMラジオ局のうち、放送対象地域が複数の県に跨るのは｢エフエム山陰｣しかない。本州でも人口規模の少ない地域ゆえ、聴取需要の大きさを考えれば2県で一つの放送局を共有するのも致し方あるまい。

　中国地方のラジオ局は瀬戸内側でも日本海側でも、街毎に周波数が異なっていることが多い。
　関東のように広い平野であれば、FM東京の電波が群馬や茨城まで届くが、海に突き出た岬で仕切られた湾の奥に開けた街が多い中国地方では、電波の届く範囲がどうしても限られてしまう。

　よって高速道路や直轄国道上を長距離走る場合は、トンネルを潜るたび・岬を越えるたびにラジオの周波数を探索しなければ、延々雑音を聴かされることになる。

　瀬戸内海側で周波数探索をすると、稀に四国側の放送局がヒットしてしまう以外は、比較的スムーズに聴きたいラジオ局を見つけることができる。
　ところが日本海側だとそうは行かない。周波数探索をすると、すぐにハングル語の放送がヒットして止まってしまうのだ。日本本土に居るのに、正確にその地域の放送周波数を把握していないと日本語の放送を探すのが非常に難しい。

　幾ら探索しても日本語が出てこないので、諦めてヒットした放送を聴いていても、｢やたら明るいメロディーやジングルが混じるから韓国かな?｣｢妙に力の入った語気の強い喋り口は北朝鮮かな?｣と思い巡らすのがせいぜいで、生憎ハングル語を理解しない私には面白くも何ともない。

　電波を増幅して坑内に飛ばす｢再放送装置｣を有する長いトンネルでは、屋外に比べて日本の放送局がヒットし易く、仮に探索できなくても入口に周波数が明示してある場合が多いので、雑音orハングル語放送を聴きたくなければ、その機会を見逃すわけにはいかない。




　広島の出先に所属し、山陰地方へ出張していた前世紀の或る日。例の通りしばらくノイズとハングル語放送を聴かされた後、漸く長大トンネルの入口にラジオ局名と周波数が明示されているのを見つけ、FM山陰を選択してカーラジオを合わせた。正確な時刻は忘れてしまったが、もう間もなく時報が流される時間帯だったと記憶している。
　正時の数分前といえば、レギュラープログラムであればNHKは天気予報・交通情報や地域の催し物の案内、民放であればCMが流される。FM山陰は民間放送なので当然CMなのだが、その内容に失笑してしまった。

　女の子2人が会話するシチュエーション。
　片方の子が彼氏と喧嘩してしまったが、とある場所へ行き仲直りしたと告白。もう片方が「よかったね」と相槌。
　やっぱり○○(=とある場所)だねっ……と2人が合点してCMは終わる。

　
　その｢とある場所｣とは、ラブホテルだった。
　昼間からラブホテルのCMを流すかなぁと呆れつつ、冒頭記したとおり聴取人口の少ない地域の放送局ゆえ、スポンサーの確保には相当苦労するであろうことも容易に察しがつく。当時の営業担当の立場としては、背に腹は代えられなかったか。
　もしかしたらCMを通じてカップルを煽り、地域の人口を増やして長期的に聴取率アップ！という深謀遠慮だったのかもしれない。


　ハングル語の放送に邪魔されつつも、FM山陰は連綿と放送を続けているが、あのラブホテルは今でもスポンサーでいてくれているのか。遠く関東に暮らしながら気になっている。




住所: 島根県松江市殿町383 山陰中央ビル
電話 : 0852-27-5111