198X年のある日 僕らはいつもの様に、映画を観てウィンドショッピングなど街の散策を楽しみ、夕食は居酒屋で呑んだ。
入ると「どどどんっ!」と、店員が太鼓を叩いてくれる、二人にとって馴染みの居酒屋。
美○と付き合い始めた頃は、夜景の見える展望レストランでカクテルとステーキと言うパターンが多かったが、デートを重ね次第に打ち解けて行く内に美○もかなり呑める事が判明し(笑)、それなら気取らず美味しい物を食べて呑もう!と言う事であちこちの居酒屋によく行ったものだ。
帰りは美○の降りる電車の駅まで必ず僕が送って行った。
ホームで「じゃ、また」と手を振った後、彼女が改札を抜けるのを見届けて踵を返した時の寂しさと言ったら!!!
(今まで二人だったのに、この瞬間から一人ぼっちに!)
なかなか休みの合わない二人、大都会の中で距離もある・・・でも電話は毎晩。
携帯電話?当時はそんな便利なモノは無かった。しかも彼女も地方出身者で寮生だったから電話は呼び出し・・・その上回線が一つしかない為、いつ掛けてもほとんど話中。かなりの人数が居たと思われる女子寮、その電話は寮生が当番制で受けるのだ。
当人が不在の場合 当番がメモを残して置くのだが、毎晩僕が電話を掛けるので、美○曰く最初の頃は
『x月y日z時、男性、ベイカー様』
と言うのが、いつの頃からか
『x月y日z時、ベイカー』
と、呼び捨てになってたそうで(笑
僕が電話を掛けて、美○が電話当番の時に当たった事は、ついに一度も無かった。
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前述の様に月一ぐらいしか会えなかったので、毎晩の電話に加えて手紙も・・・。
僕は美○に惚れていたから、常に優しく接し 事あるごとにプレゼントを贈り尽くした。
ある日、美○は僕に言った
『やさしいねぇ・・・』
僕は返事が出来なかった・・・自分でも、美○に見せる態度は本当の姿ではないと分かっていたのだが、惚れて惚れて自分が出せない。
『やさしいねぇ』 ・・・その言葉の裏には
(やさしい
だけだねぇ・・・)
が潜んでいたように思える。
その内 僕にも疲れが出て来て、身近に居た女友達も
(ベイカー君、いつまで何やってんの?)
・・・みたいな目で見てたんだと思う。ハッキリとは言わないが
(別れなよ)
・・・的なオーラが発言から見え隠れする。僕はこんな状況を女友達に話した事は無いが、おそらく共通の男友達から情報を得て居たんだと思う。
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(入ると「どどどんっ!」と、店員が太鼓を叩いてくれる、二人にとって馴染みの居酒屋。)
しゃべって呑んで喰って、もういい時間・・・美○が言った。
『そろそろ帰らないと・・・』
「・・・うん・・・」
僕は返事を曖昧にして席を立たない。
美○も帰る訳にも行かず、ほとんど氷しか残ってないチューハイのジョッキに口をつけている。
店を出て深夜の街をトボトボ歩いた・・・もう電車はない。
どのくらい歩いたんだろう・・・ネオン街に近づくと、美○は何だか急に現在の状況を否定するかの如く、トンチンカンな話をしている。
何軒か無言で通り過ぎ、ある入り口の前で立ち止まった、暗い中で料金表の看板照明が眩しい。
僕は既に押し黙って動かない美○の背中をそっと押した。
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Scene 1
『・・・閉めて』
直ぐ横の窓にはガラス越しの光が入らぬよう、カーテンの代わりに壁紙の貼られた引き戸があったのだが、4枚のうち内側の2枚の位置がずれており、外のネオンの光が入って来てたのだ。
僕は内側の引き戸の一枚を閉めたのだが、それは逆の方・・・反対側が開いてしまった(爆
『・・・』
(く~ カッコ悪っ!・汗)
美○は無言だったが
(もうっ、ドジな人)
とマジで思ったか
(ぷふっ)
と吹き出したのか・・・
定かではない。
大事な時にドジな1ベイカー11(笑
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Scene 2
その前年の社員旅行・・・たいていは一泊二日で温泉などへ行くのだが、チャーターされた観光バスのバスガイドさんが美○だった。
僕は一目惚れして、旅行中に立ち寄った所で一緒に写真を撮ってもらい、現像が出来たら写真を贈るべく住所を聞いた。
その後の事も他の社員には一切知られていない。
美○は決して、男に尽くさせて『ラッキー!』なんて思う女ではなかったが、当時僕が背負っていた社会的な責任と心の生傷を癒してはくれなかった。
僕が郷里へ帰った後、『結婚しました』のハガキが来た。それまで ずっと手紙の遣り取りが続いていたのだ。
内容は殆ど近況報告、互いに『また、会おうね』と書くものの、ついに再び会うことは無かった。
手紙は段ボール箱に一杯・・・家を建て引越しの時、家内が段ボール箱を見つけた。
その内容を家内が読んだのかどうか知らないし、読んでも構わなかったが。
家内は僕に段ボール箱を見せて
『・・・これ・・・』
「捨てれば、いいよ」
『でも、本当にイイの?とって置いたら?』
「いいよ、もう」
どれも読み返す事は無かったし、読み返す気も無かったが むしろ家内の方が気を遣ってくれて・・・恋人であれ夫婦であれ、理解・信頼・尊敬 これを忘れちゃイカンです。
Posted at 2014/03/28 05:12:31 | |
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