先代のマセラティ・クアトロポルテはヒット作だったと思います。
ピニンファリーナの美しいスタイルに、フェラーリ謹製エンジンと聞いただけでそれがどんな車かが、さほど車に関心を持たない人にも伝わるという歴代マセラティの中でも分かり易い車でした。事実日本でもオジサマ達から「4ドアのフェラーリ」というように認知され、『これならドアが4枚だから経費で落とせる!』と言ったかどうかは謎ですが、そこそこ街で見掛けるようになりました。
ところがそれまでメルセデスのSやレクサス(当時はセルシオ?)に慣れて体が鈍ったオジサマ達には「何だコレ?乗りづらいじゃないか!」という事と、初期のカンビオコルサのメンテが面倒で初期の中古が多く出回る事となったようです。私も初期ものとMC後の両方乗った事がありますが、ボディの剛性も含めて別物という印象を受けたのを覚えています。
そんな先代モデルも8年生産されて現行型にバトンタッチとなりましたが、その8年の間に自動車を取り巻く環境は今まで以上に大きく変わり、こうしたプレミアムクラスにもその流れが波及したようで、今までV8一本でしたがV6モデルが加わって登場しました。
今回はV8モデルを丸一日試す機会があり、自身の日常というシチュエーションで乗ってみました。
全長5263mm、全幅1958mm、全高1481mmと先代モデルより大きくなりました。これは大きさで言えばトヨタ・センチュリーに匹敵する大きさで、流石に日本ではその大きさ故に選択肢から外れるケースもありそうです。
一番伸びたのが全長で、真横から見るとそのホイールベースの長さに驚きます。
個人的にはもう少しホイールベースが短くても良さそうに思いますが…
顔つきも先代のキープコンセプトですが、当初怖そうに見えた顔も、よく見ると端正で品があります。
フロントグリルにもう少し質感の高さが欲しいところです。
気になるエンジンはV8の3.8をツインターボで過給するユニットであります。
このモデルが登場直後から言い尽くされた事ですが、まず火を入れた時の第一声からして大人しくなりました。ここまで大人しくなると、以前のようにスタート時のひと吠えが欲しく感じました。
実際に公道に出てみると、乗り心地が先代モデルと比べてソフトになっています。それはフワフワという訳でなく、宙に浮かんだようなフラット感という感じです。コーナーでのフットワークもその影響で以前ほど速い印象はありませんが、この巨体を考えたら十二分にスポーティなのでしょう。私の日常は結構狭い道を通るのですが、結構ハンドルが切れるようになったのは先代の反省でしょうか。
8速のATも燃費重視のようで、普通に乗っていれば普通に走れます。が、それではこの車を選ぶのに寂しいのでスポーツモードを選択すると、本家のフェラーリ以上に鋭くて敏感なアクセルに少し気を使います。とにかく踏めば速いのは当然なのですが、いつも車のほうから「ねえ、もっと速く走ろうよ!」と催促されているようで少し疲れます。加えて音や加速感も先代のような官能的なアコースティックな感じではなく、どこかシンセサイザーで演奏するクラシックという感じでしょうか。
官能的と言えば、先代モデルは肌に吸い付くような艶めかしいレザーシートも売りでしたが
大きくて座り心地が良くなりました。が、これを例えば「新型のアウディのシートです」と言われたら、そのまま納得してしまいそうな程に色気が無くなったように思います。
サッシュレスの昔でいうハードトップですが、それでもリアの電動ブラインド付は大したものです。
トランクの容量は立派なものだと思います。
これでも狭く感じる人は、車の使い方を根本的に見直したほうが良いのでは…
いつもの日常でいつも通りに乗ってみて思う事は、これまたいつも通りの結論ですがV6搭載車に軍配を上げます。この車の場合もそうですが全体のタッチが軽快で、積極的にパドルシフトを操る走りに楽しさを感じます。正直なところサルーンとしての完成度と速さではジャガーXJRのほうが上だと思いますが、この洒落た雰囲気だけでもこの車を選ぶ充分な理由になると思います。
先代のクアトロポルテは「これでもか!」という程に色々な意味でイタリア車でした。それが何故か今回は影をひそめて少しゲルマン寄りな匂いを感じたのですが、こうした「これでもか!」というナショナルカラーみたいなものって、ハードの部分の競争に限界が見えてきた今こそ大切な要素だと思います。例えば今のジャガーも最初はよく分かりませんでしたが、今となればポールスミスやコンラン的な「現代のイギリス」臭を強く感じますし、性格の希薄さを散々叩かれたレクサスだって「黒子に徹する美学」もまた個性になってきたように感じます。そうした意味で、もう少しイタリアの匂いを感じるほうが魅力的だと思うのですが、これもまた時代の流れなのでしょうか。
このリアビューも良く纏まっているとは思います。
が、やはりどこかインフィニティに似ていると思ってしまうのです。ここは先代のが好きです。
外見でV6とV8を区別出来るのはこのマフラー形状だけです。
個人的にはV8の角よりもV6の丸のほうが好みです。
先代モデルの官能的な部分を持った2ドアクーペのグランツーリズモは、そろそろ生産が終わるようですがまだ売っています。フェラーリも過給エンジンになる流れの中、このグランツーリズモは今が最後の買いなのかも知れません。
Posted at 2014/10/28 16:16:07 | |
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