ちらっとだけ^^;
サーキットに行って車高調のロアシートを回していると、2回転も回せば「別のクルマかっ?(汗)」というほど違いを感じることがあります。
これはどんな状態でもよく分かるわけではなくて、例えばひどいアンダーやひどいオーバーを感じるような状態からの2回転だと、あまり違いを感じないこともあります。
乗りながら「うーんもうちょっとこっちかな…」などと判断していき、だんだん良い感触を得られるようになってくると、1回転や1/2回転でも差を感じられることがあります。
ロアシートの調整に限ったことではなく、例えばアライメントを触るときなどにも、同じようなことを感じることがあります。
それはいいとして、このように「ロアシートを回す」という作業をする場合、目的は車高の前後バランスの調整であるわけですが、同時にプリロードも変わります。
「車高とプリロードが同時に変わる」というとき、そこで得られた感触が一体どちらの影響によるものなのか?を判断することは困難です。
ここではまずはじめに、車高が僅かに変わることによってどういう影響があるかを考えてみましょう。
1.前後重量バランスが変わる
すごく変わりそうなイメージがありますが、よく考えるとほとんど変わらないと思いますが、確かに変わるとは思います。
こちらの記事(
車高変化と前後荷重の関係について)を読むと、試算結果は車高10mmで約0,8kgfの変化とあります。
詳しくは割愛しますが、もし言ってる意味の分からない方がおられましたら、こちら参考にしてください(
車高バランスとフロント荷重/リヤ荷重)
2.ロール軸の傾きが変わる
個人的には最大の影響だと思います。
もちろん実測したこともなければ計算したこともないのでただの予想です。
こちら参考にしてください(
重量配分とロール剛性配分とロールセンタ その1)
3.アライメントが変わる
トーもキャンバも変わりますが、影響を感じられるとしたらトーでしょうか。
フロントであれば5~10mm程度の調整でサイドスリップが車検に通らなくなることがあります(もとの車高によります)
4.ブッシュによるばね定数が部分的に変わる
これは作業手順にもよりますが、例えば1G締め付けを行った後でプリロードをかけようとしてロアシートを上方向に回転させると、上下サスペンションブッシュによる反発力が生まれます。
ばね定数を下げる方向ですかね。
走行中のストローク範囲で言えば、調整前の車高~調整後の車高までのわずかな範囲になります。
ブッシュ締め付け位置そのものは変わらないので、大きくストロークしたときのばね定数は変わらないと思われます。
そういう意味では初期のみの影響。
5.ダンパにかかる横力が変わる
図を描かないと分かりにくいかと思いますがここでは割愛します。
アーム位置変化によってダンパの相対的な取付け角度が変化しますから、アッパーマウントブッシュとロアブラケットブッシュのねじれ量が変わるので、ダンパを曲げる力の大きさが変わると思われます。
したがってサスペンションのストローク抵抗が変わります。
最終的には熱エネルギーとなると思われるので減衰力と呼んで構わない気もしますが、ダンパオイルの抵抗とは別です。
6.タイヤからボディへの(瞬間的な)入力の方向が変わる
これも図を描かないと分かりにくいかと思いますが割愛します。
タイヤの上下動はメンバ側のアーム取付点を中心とした円運動なので、入力時のアーム位置によって初期入力の角度が変わります。
サスペンションは常に伸び縮みしているのでそういう意味では常に変わりますが、車高が変わると常用範囲が変わるということですね。
力のベクトルは上下方向と左右方向に分解され、最終的にはほとんど全てストロークに使われますが、一部の力は複雑な経路を辿ってばねやダンパを介さずにボディに入っていくものと思われます。
アーム形状でも変わるので、アーム各部にかかる応力をFEM解析して……って無理無理^^;
7.スタビへの入力方向が変わる
アームの場合とは少し違いますが似たような感じ。
まだまだあるかもしれませんが、キリがないので次に行きましょう。
今度は車高を変えずにプリロードだけを調整した場合を考えてみます。
車高をまったく変えずにプリロードだけを調整するのはなかなか手間なので、ここではちょっと特別な車高調を使いますね。
この車高調のアッパーマウントには、内部にダブルナットを利用したロック機構付きのモータが組み込まれていて、ダンパロッドに対する位置を自由に変えることが出来ます。
そのためクルマをジャッキアップしなくても、駐車場に停めてある状態でプリロード調整が可能です。
なんて都合のいい……(笑)
スイッチはリモコン式です。
さっそくモータを動かしてみましょう。
えいっ。
モータの回転により、アッパーマウントが上下に動きます。
センサがついてるので一番上まで行くと反転します。
スイッチをオフにするとモータが止まり、その後、内部に組み込まれたダブルナットが締め付けられることでしっかり固定されます。
至れり尽くせりですね。
売ってませんよ(笑)
本来はロアシートをフックレンチ(車高調レンチ)で回してプリロードを掛けますが、この装置はモータによってアッパーマウントを回すことでプリロードを掛けることが出来ます。
しかもジャッキアップしなくても良いので、ばねに1Gぶんの車重がかかったままの状態でプリロード調整をすることが出来るわけです。
車重が掛かった状態でプリロード調整を行うとどういうことになるか、スケルトンにしたダンパを使って見てみましょう。
こうなります。
モータの力はダンパロッドをダンパケース内で動かします。
ちなみにボディやアームを踏まえて眺めてみると、こんな感じですね。
(体力が尽きたので静止画です。笑)
プリロードの有無で車高が変わらないのは、ばねに掛かる力が変わらないからです。
では何も変わらないのか?というと全くそんなことはなく、ダンパロッドがダンパケースの中に押し込まれます。
従って「ダンパロッドがケースの中に押し込まれたことによる何らかの影響」が発生します。
その影響が全部でいくつあるか、それぞれどのくらいの規模なのかは、僕にはまだ分かりません。
しかし確実にこのような違いがある以上、影響がないわけではありません。
単にその影響がばねによる影響ではないというだけです。
物事は複雑に絡み合っているので、よく考えてみると意外な影響があったりするかもしれませんね。
巷で言われているプリロードの影響に関しては、9割以上が、車高の影響だと思います。
プリロード掛けるときに上がってしまう車高を無視する人が8割、残りの2割のうち約半数は、計測または調整に誤差があって、プリロードを掛ける前と寸分違わない車高には出来ていないはずです。
こだわり出すと意外に難しいことなので…。
別の面から、ばねへの影響に関してもう少し補足しますね。
プリロードをかける際、フックレンチを握る手には確かな手応えが伝わります。
そのとき感じる反発力は、表現を変えると「そのぶんのエネルギーを与えている」ということなので、そのエネルギーの行き先が必ずどこかにあるはずです。
そのことをもって、プリロードぶんのエネルギーがばねの中に蓄えられていくイメージを持ってらっしゃる方はすごく多いと思われます。
ただ実際のところ、そのぶんのエネルギーは最終的に位置エネルギーとなることで、力が釣り合います。
つまり、車高が上がるということです。
これはプリロードをかける際に、
(1)ジョッキアップした状態
(2)ジョッキから降ろした状態
のどちらで行っても、物理量として違いがないことを示しています。
ジョッキから降ろした状態でプリロードをかけることは普通は困難ですが、下から潜って作業するような場面を思い浮かべてください。
そのとき作業者の右腕がレンチを回してばねに加えたぶんのエネルギーは、そのまま車高を上げるために使われます。
車高が上がるということは、クルマを持ち上げるという仕事が発生したということですから、つまりエネルギーが消費されたことになります。
加えたぶんのエネルギーと、消費されたぶんのエネルギーが釣り合うので、エネルギー保存の法則がそこで完結します。
完結するので、特に残るようなものはありません。
そのため、プリロードをかけている作業中の印象に反して、ばねを普通より余計に動かす(力を伴って変位を発生させる=エネルギーが必要)ような力は実際には存在していないことが分かります。
ただし(1)と(2)とを実際に行って比べたとき、作業ミスによりなんらかの物理量が異なってしまった場合はその限りではありません。
(プリロードの量が違うなど)
というわけでプリロードに関しては、下から掛けるか上から掛けるかによって条件が変わります。
下から掛ける場合は車高が変わるので、挙動は激変すると思われます。
上から掛ける場合はばねに掛かる力は変わりませんが、ダンパケース内におけるダンパロッドの状態が違うので、そのことに起因する何らかの影響はあってもおかしくありません。
現在分かることはこんなところですが、今後も引き続き気に留めておき、ほかに何かしらの影響がないか探してみることにしましょう!
ちなみに僕の書くことは一切の確証がないので、今までの記事含め、読まれる方は話半分で読んでください(笑)