今日は荷重移動のお話です。
みんな大好き荷重移動!
でも今日は数式を使いますので……数式を使うと嫌われそう(苦笑)
荷重移動量の計算
以前ですね、こんな記事を書いたことがあるんです。
コーナリング時の荷重移動量の前後配分に関するお話です。
自動車操縦安定性講座入門というサイトの
<4-2、左右荷重移動におけるロールセンター高とロール剛性前後配分>というページについて書いた記事が過去にあって、それに対する補足記事になります。
文中で「現在は当時と比べて少し理解が進んでいるのでうんぬんかんぬん」などと偉そうに書いてるのですが、実際のところこの時点でまだ理解しきれてない部分があって、後半はちょっとすっきりしない書き方になっています。
それがちょっと心残りだったことを、先日ふとした拍子に思い出したので、今日はその部分を書きたいと思います。
いつものように「誰得なのか?」というニッチな分野の記事になりますが、もしかしたらこの部分がよく分からなくて悩んでる方が世界のどこかにおられるかもしれないので、ご興味ありましたらお付き合いください^^;
ΔWf・Tf-Wf・Yg・Hf=Gf・φ
W :車重
Yg :横G
Hg :重心高さ
ΔHg :重心からロール軸までの距離
Hf :ロールセンタ高さ(フロント)
Hr :ロールセンタ高さ(リヤ)
Tf :トレッド幅(フロント)
Tr :トレッド幅(リヤ)
ΔWf :輪荷重変化量(フロント)
ΔWr :輪荷重変化量(リヤ)
こちらは本日のタイトルである「ロールセンタまわりのモーメントの釣り合い」の式です。
定常円旋回中を前提としています。
フロントについて書かれてますが、リヤに関してはfをrに置き換えてください。
記号では分かりにくいという方のために文字に変換して話を進めますね。
※すみません、ブログを投稿したあとで数式の画像が小さくて見にくいことに気付いたのですが時間ないので後日修正します汗
クリックすると拡大しますので大きくしてご覧ください
それぞれの要素に説明をつけてみました。
モーメントというのは物体を回転させる力のことで、式の左辺にある「荷重移動量×トレッド」というのがクルマをロールさせる力の源泉になります。
クルマはハンドルを切ると重心に横Gがかかって荷重移動が発生し、その結果、クルマはロールします。
荷重というと上から下方向への力をイメージする方も多いと思うのですが、それだと地面にかかる荷重になってしまうので、工学としてタイヤの接地荷重を扱う場合はあくまで「タイヤにかかる荷重」ということで下から上方向の力を指します。
反力なので力の大きさは同じですからどっちでもいいと言えばどっちでもいいんですけど、今回の場合、方向はとても大事になるのでご注意ください。理由は後述します。
ともかく荷重移動の結果として、サスペンションの内輪側が伸びて、外輪側が縮みます。
それがロール運動ですね。
このとき、クルマをロールさせるためのモーメントの大きさは
外輪で増える荷重×トレッドの半分 + 内輪の減る荷重×トレッドの半分
で表されます。
T字レンチの両端に力をかけてねじを回すようなものですね。
ここで、荷重移動というのは「移動」であるため左右荷重移動時の内外輪の荷重の変化量は同一となることから、
外輪で増える荷重×トレッドの半分 + 内輪の減る荷重×トレッド幅の半分
= 荷重移動量×トレッドの半分 + 荷重移動量×トレッドの半分
= 荷重移動量×トレッド
となります。
これが式(1)の「荷重移動量(フロント)×トレッド」です。
※ちなみにこのモーメントの大きさはレバー比の大小に関わりません。(レバー比が増えるとばねにかかる荷重も大きくなるので、円の中心側を大きな力で押すか円の外縁側を小さな力で押すかの違いがあるだけで、結果的なモーメントは同じ)
※ただし走行中のロールセンタは車両中心線上にあるとは限らないのと(ロールが増えるほど外輪接地中心に近づく)、ジオメトリによるジャッキアップが発生するとそのぶんでもロールセンタが移動しますので、実車への適用にあたってはその2点に注意してください。
そんなわけで「荷重移動量×トレッド」がクルマをロールさせるためのモーメントになるのですが、この力をばねが受け止めることによって、ロールというのはある一定のところで止まります。
そのため定常円旋回中はロール角が一定になります。
このとき、コイルばねやアンチロールバー、ブッシュなどのロール方向のばね要素の全てを含めたロール方向のばね定数を「ロール剛性」と定義すると、それらがロール方向のモーメントを受け止めるときの力の大きさは「ロール剛性×ロール角」で表されます。
コイルばねにかかる力が「ばね定数×縮んだ長さ」で表されるようなものです。
これが式(1)の右辺ですね。
というわけで式(1)のうち「荷重移動量×トレッド」と「ロール剛性×ロール角」は分かったので、最後の「荷重(フロント)×横G×ロールセンタ高さ(フロント)」とは何ぞや?というのが本日の本題になります。
結果から言うとこれは「コーナリングフォースによって生まれるロールセンタまわりのモーメント」になるのですが、
ハンドルを切るとタイヤにコーナリングフォースが発生して、その力がクルマを横方向に引っ張るのに対し、ロールの回転軸であるロールセンタが地面から離れたところにあるため、地面からロールセンタまでの距離(つまりロールセンタ高さ)をモーメントアームとして回転の力が生まれるわけです。
ただ、ちょっと待ってください、これってロールを大きくさせる方向の力なんじゃないの?
だったら式(1)のここの部分は、引き算じゃなくて足し算になるんじゃないの?と僕は思いました。
さっきの「地面が受ける荷重」と「タイヤが受ける荷重」は応力に対する反力の関係なので力の大きさが同じであり、大したことではないように思えますが、引き算と足し算では大きな違いであり、それがどちらなのかということで数式の計算結果がまるで変ってしまいますね。
「方向が大事」と書いた理由がここにあります。
これ。引き算と足し算どっちが正解なんでしょうか?
というか答えは書いてあるとおりなので初めから分かってるのですが汗、僕はバカなので自動車操縦安定性口座入門の著者の方が間違ってるのでは、と思いました。
一瞬ですが、本気でそう思いました。
頭悪いっておそろしい…。
結局のところ、これって
こういう方向の力がかかるということなので、サスペンションの内輪側が縮んで、外輪側が伸びる方向のモーメントなんです。
通常、ロールというのはサスペンションの内輪側が伸びて、外輪側が縮む運動ですから、それに対して逆方向ということは、つまり式(1)は引き算でよい、ということが分かります。
こういう回転方向の問題はボディを基準として考えるのか?地面を基準として考えるのか?で回転の方向が逆になってしまうので、分からなくなってきたらサスペンションの内輪側と外輪側がそれぞれどちらがわに動くのかということを確認すると理解の助けになります。
ちなみに車高を下げたクルマでロールセンタ高さがゼロ(つまり地面の高さと同じ)の場合、「荷重(フロント)×横G×ロールセンタ高さ(フロント)」もゼロになるので、式(1)は「荷重移動量×トレッド」と「ロール剛性×ロール角」というシンプルな式になります。
さらにそれより下がってロールセンタ高さが地面より下になる場合は、モーメントアームが下方向に伸びることになるため、したがって「荷重(フロント)×横G×ロールセンタ高さ(フロント)」はロールを増やすモーメントになり、今度は式(1)が引き算でなく足し算になります。
また、定常円旋回中はロール角が一定なので式の左辺と右辺が釣り合いますが、ロールが増えていく過渡期は左辺>右辺となり、ロールが減っていく過渡期は左辺<右辺となります。
そんなわけでロールセンタまわりのモーメントの釣り合いに関して、過去の自分が書いたダメな部分を補足しただけの恥さらし記事でした。
最近ふとした拍子に自分の過去の記事を思い出して「あっ、あれ間違ってるわ…」と気づくことが増えました。
認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを!(バカなだけです)